Interview
TK
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狩野英孝
TKさんが狩野さんの大ファンということで今回の対談が実現したわけですが。
- 狩野
- まず、それがびっくりです。
- TK
- 最近、狩野さんのことが気になりすぎちゃって。近年稀に見るくらい(笑)。
- 狩野
- マジですか(笑)。昔からお笑いは好きなんですか?
- TK
- そうですね。とはいえ、あまり詳しいわけではなくて。もともと、あまりテレビを観るほうじゃなかったんですけど、数年前に誕生日プレゼントでハードディスクレコーダーを貰って、それをきっかけに録画して観るようになったんです。そしたら狩野さんが大活躍されていて。
- 狩野
- いやいや(笑)。
- TK
- 狩野さんって、他の芸人さんと違う次元にいらっしゃると思うんです(笑)。
- 狩野
- 僕は、そこ全然実感してないんですけどね(笑)。
- TK
- 狩野さんの笑いって、すごく純粋なところから生まれてるじゃないですか。音楽ドッキリとかも完全に本気だったと思うし。
- 狩野
- 僕、中学時代から音楽が大好きだったんですよ。だから「CDを出さないか?」って言われた時は飛んで喜んで。それで曲作りもライヴも真剣にやったんですけど、結局、ドッキリで。
- TK
- かなり真剣でしたよね。
- 狩野
- 僕としては笑いどころとか一切ないと思っていて。なんでみんなが笑ってるのかよくわからないんですよ。
- TK
- 他のテレビ番組に出てるときも同じような感じなんですか?
- 狩野
- ええ。たとえば、エピソードトークとかあるじゃないですか。エピソードトークを頭からケツまで噛まずに喋ると、お客さんがガッカリした感じになるんですよ。「なんだ、今日は噛まねえのか」みたいな。
- TK
- 何かハプニングがないと納得しないみたいな感じなんですか?
- 狩野
- そうそう。言い間違いとかハプニングが笑いになって。だから収録後にプロデューサーさんとかに「面白かったよ!」って言われても全く手応えを感じないんですよ。本当だったら、自分が笑いを取りたいところで、きっちり笑いを取りたいんですけど。
- TK
- 自分の本領を発揮できてない感覚があるんですね。
- 狩野
- 悔しい気持ちは常にあります。
- TK
- そういう状況だと、不安を感じますよね?
- 狩野
- 不安?
- TK
- 偶然のハプニングが笑われているということは、次にいつ、そういったハプニングが生まれるか予想できないわけじゃないですか。自分の力ではコントロールできないものだし。
- 狩野
- そうなんですよ。ハプニングで笑われるんだったら、何も準備しないでいいだろうと思って収録に臨んだことがあったんです。そしたら見事に何も起きなくて。
- TK
- 笑いも?
- 狩野
- ゼロでした(笑)。やっぱり自分の中で、ちゃんと武器を用意して行かないと、ハプニングすら起こらないんですよね。あらかじめ用意したプランが崩れたときが面白いっていう。
- TK
- わざわざ武器を用意したのに、その武器が壊れた瞬間ですよね(笑)。
- 狩野
- そうそう(笑)。でも、それが本当に難しいんですよ。
- TK
- イジられることに対して抵抗はないんですか?
- 狩野
- うーん、これまた微妙で。「僕をイジってくださいよ」っていう感じだと、イジる側もイジらないんですよね。
- TK
- ああ、なるほど(笑)。
- 狩野
- いじめっ子と同じ感覚というか。相手が嫌がる姿が面白いからイジるんです。喋ってる最中に絡んできて、僕が「何、茶々入れてるんですか!」とか言うと、皆さん喜んでくれるんですよ。まあ、イジられて笑いが生まれるのは芸人としては嬉しいですけど。
- TK
- でも、本当に嫌だなと思う時もあるわけですよね。
- 狩野
- 本当に嫌な時もあります。ドッキリとか特に。何なら、この対談も僕、疑ってますからね(笑)。
- TK
- ははは。でも、本当にこういう状況ってことですよね。実は別室でモニタリングされてるんじゃないかって。
- 狩野
- 3%ぐらい疑ってます(笑)。1ヶ月に8回ドッキリに引っ掛かったときは完全に人間不信になりましたから。
- TK
- えっ?!それって、気付かないものなんですか?
- 狩野
- それが気づかないんですよ。手口も巧妙だし。連続8回引っ掛けられて、「もう騙されないぞ!」って気持ちになると、そこから半年ぐらい何もなかったり。
- TK
- 差し引きも上手いんですね。
- 狩野
- 使ってる道具も本格的なんですよ。実際にスパイが使う道具とか使ってるみたいで。
- TK
- 小型のカメラとか。
- 狩野
- 『ロンドンハーツ』って番組は本当に凄いんですよ。1000万円ぐらいかけて架空のPVを作ったりしますから。
- TK
- 一瞬放送されてた、あのPVですよね。
- 狩野
- そう。放送されたのは、あの一瞬だけですよ。LED焚いて、でっかいリムジンとか外人モデルまで用意して。
- TK
- そこまでされたら信じちゃいますよね。
- 狩野
- 徹底的にだますから疑う余地がないんです。
- TK
- でも、毎回騙されてる側からしたら、途中で暴いてやろうっていう気持ちになりますよね。
- 狩野
- なります、なります。
- TK
- 企画倒れにさせてやろうとか。
- 狩野
- 僕としては全然それでもいいと思ってます。
- TK
- ははは。
- 狩野
- 今までドッキリを仕掛けてきた人に、逆にドッキリを仕掛けるというのが僕の夢なんですよ。
- TK
- それは実現できそうですか?
- 狩野
- 1人では無理だと思います。だから出川さんとか、フルーツポンチ村上とタッグを組もうと思っていて。
- TK
- その布陣で臨むんですか(笑)。めちゃくちゃ不安がよぎるんですけど(笑)。
- 狩野
- いつか騙されてる側でリベンジしてみたいですね。
- TK
- ちなみにドッキリに引っ掛かった後、編集された映像を観て、やっぱりご自身では全然面白いと思わないんですか?
- 狩野
- 「編集で面白くしてくれてありがとうございます」っていう気持ちはあるけど、1個1個のシーンに関しては、「面白いところあった?」って思います。こっちは真面目にやってるだけなので。
- TK
- 音楽ドッキリで、真剣に楽曲を作ってるところとか、すごく面白かったですけど。
- 狩野
- ミュージシャンの人に聞きたいんですけど、ああいう姿って普段は絶対ファンに見せないですよね?
- TK
- そうですね(笑)。
- 狩野
- あれ、かなり恥ずかしいことですよね。
- TK
- でも普通に凄いなと思いました。いきなり「インドの牛乳屋さん」っていうタイトルで曲を作ってくださいって言われて、アコギを渡されて即興で曲を作って。
- 狩野
- オーディションだと思ったんで、必死だったんですよ。プロデューサーさんに試されてると思ったんです。「無理です」って言ったら、CDデビューの話が立ち消えになっちゃうんじゃないかって。しかも、テレビに出させていただくようになって2年目とか、そんな感じだったんで。
- TK
- まだそんな時期だったんですね。
- 狩野
- はい。芸人として、何か振られて黙っちゃうっていうのが一番ダメじゃないですか。だから無理やり曲を捻り出した感じで。
- TK
- あれ、本当に凄いなと思いましたよ。その場でお題を出されて曲を書くとか、僕は出来ないと思うし。実際、どういう感覚で歌詞を考えられたんですか?
- 狩野
- 僕はL'Arc〜en〜Cielが大好きだから、「茨の道」とか「摩天楼に抱かれて」とか、そういう格好いいフレーズを使いたかったんですけど、ああいうふうに即興みたいな感じで追い込まれちゃうと、10代の頃、ラルクとかと同時に聴いていた篠原涼子さんの歌詞とかが混ざっちゃうんですよ。「Perfect Love」って曲がそうなんですけど。
- TK
- 「いとしさと切なさ」ってフレーズが唐突に入ってきますよね(笑)。
- 狩野
- いきなりお題を振られて、「どうしよう!」ってなっちゃって、無意識に。だから途中でギュイーンって方向展開したんですけど。
- TK
- ああいう歌詞をどんなテンションで生み出してるのか気になってたんです(笑)。
- 狩野
- どこか大喜利みたいな感覚はありますよね。印象に残るフレーズを一瞬で考えるっていうか。「僕イケメン」とか「そんなの関係ねえ」とか「あったかいんだから」とか、何でもいいんですけど、耳に残るフレーズってお笑いも音楽も、どこか共通する部分があると思うんですよ。
- TK
- ただ、メインストリームになるようなものを目指したとしても、それが世の中に受け入れられるかどうかって、作り手は予測できないですよね。
- 狩野
- まさに、それ! 正解!
- TK
- ありがとうございます(笑)。
- 狩野
- 欲が出ると人に響かないんですよね。実際、「僕イケメン」とか「スタッフゥ~」とか、本当に無欲なところから生まれたんですよ。
- TK
- ちなみに「スタッフゥ~」ってギャグは、どこから生まれたんですか。
- 狩野
- 「ナルシストがラーメン屋さんだったら」っていうコントを夜中の2時半ぐらいに家で練習してた時ですね。最初は普通に「おーい、スタッフー」って感じだったんですけど、「スタッフー」を「スタッフゥ~」って言い換えたら、自分で面白くなっちゃって。
- TK
- 夜中のテンションで(笑)。
- 狩野
- そう。で、台本に書いてある「スタッフ」を「スタッッッフ~」みたいな感じにして、ライヴでやったらめちゃくちゃ受けて。あれも、まさに偶然から生まれた笑いで。それ以降、新しいギャグを色々考えてるんですけど。
- TK
- ヒットなしですか?
- 狩野
- ヒットなし。人間、欲をかいたら駄目です。
- TK
- 今はネタは作られていないんですか?
- 狩野
- ギャグぐらいですね。ネタコント1本作るっていうのはほとんどなくて。
- TK
- ネタ番組も、あんまりないんですよね。
- 狩野
- そうなんですよ。
- TK
- ちょうど狩野さんが出てきた頃が、ネタ番組全盛期だったんですか?
- 狩野
- お笑いブームでしたよ。『爆笑レッドカーペット』、『エンタの神様』、どの番組でも、まず「自己紹介がてらネタをやって」って言われて。今はそういう番組がないですから後輩も大変だと思います。
- TK
- そういう状況の中で、今後、どうやって生き残っていこうとか考えたりすることはありますか?それこそ音楽業界も年々CDが売れなくなったり、シビアな状況が続いてるわけですけど。
- 狩野
- でも僕、正直、そんなに危機感を感じてなくて。
- TK
- さすがです。
- 狩野
- いやいや(笑)、確かにどんどんネタ番組は減ってきてますけど、僕自身そんなに危機感を感じることってないんですよ。
- TK
- それはどうしてですか?
- 狩野
- 「自分が面白いと思ってることをやり続ければ大丈夫だろう」っていう気持ちがどこかにあるんですよ。僕は役者を目指して上京して、日本映画学校という専門学校に入学したんですけど、入学後も音楽とかやったりして、なんとなく役者と音楽っていう、2つの世界を覗いてはみたんです。でも、その2つの道を諦めて、なんで芸人になったかといえば、芸人は面白ければ売れると思ったからなんです。たとえば良い曲を書いても売れないミュージシャンってたくさんいるし、良い演技をしても芽が出ない俳優さんもたくさんいるじゃないですか。
- TK
- そうですね。
- 狩野
- でも、お笑いだったら面白い順に売れていくから。たとえばミュージシャンを目指したとして、自分より才能がないヤツが売れたら絶対に僕は嫉妬の気持ちを持ったまま音楽の道を諦めたんじゃないかと思うんですよ。でも、お笑いの道だったら「自分は面白くなかったんだな」って諦めが付くような気がしたんです。実際、今は幸せなことに、面白いなと思うことをやらせてもらってるし。時代によって波はあるでしょうけど、自分が面白いと思えることをやり続けていけば、ずっと大丈夫だろうなって思うんですよ。
- TK
- お笑いの世界に入る前に抱いていた感じと、実際入ってから感じたギャップみたいなものって何かありましたか?
- 狩野
- ありました。この世界に入る前は、芸人って、すごく自由奔放な生活を送っているんだろうと思っていたんですけど、いざ入ってみると全然そんなことなくて。それこそ、礼儀から細かく指導されるし。特に僕が所属しているマセキ芸能社という事務所は内海桂子という大ベテランがトップにいらっしゃって、たとえばダメージ・ジーンズとか履いて、「はい、どうもー」みたいなかんじで舞台に出ていくと、「膝小僧出して、お客さんの前に出るんじゃないよ」みたいな感じで怒られるようなところで。お洒落で無精ヒゲとか生やすのもダメですし。
- TK
- 狩野さんのロン毛もかなり怒られたんじゃないですか?
- 狩野
- そういうキャラクターだって、ちゃんと説明できれば大丈夫なんです。単なるお洒落でとか、そういうのは許されないんですよ。
- TK
- 想像した以上にきっちりした世界だったわけですね。
- 狩野
- あと、芸人って自分が想像してた以上に泥臭い仕事なんだということにも、この世界に入って気づきましたね。トーク番組とかで、僕がエピソードトークを話すと、よくアイドルの女の子とかが、先輩芸人の真似をして「全然、面白くなーい」とか言ってきたりするんですよ。
- TK
- そういう光景たまに観ますね。
- 狩野
- テレビに出始めの頃は、正直、「なんだ、コイツ?」とか思ったりしたんですよ。それで収録後に楽屋で先輩の出川哲朗さんに「あれ、ムカつきませんか?」って相談したら、「いや、あれは俺たちに頼ってくれてるんだよ」って言われて、「この人、悟ってるわ!」って感動したんですよ。
- TK
- 完全に悟ってますね。
- 狩野
- 「この人を突っつけば笑いに繋がるんじゃないか」って。そういう意味で俺たちは頼られてるんだって出川さんに言われて、すごく納得したんですよ。なんだったら、その子のために大きなリアクション取るぐらいじゃないと逆にダメなんじゃないかって。
- TK
- 出川さんと狩野さんが熱くそういう話をしてる光景も凄そうですけど(笑)。
- 狩野
- そうですね(笑)。とにかく出川さんって真面目な人なんですよ。出川さんに絡んで笑いに繋がらなかった時とか、本番後に楽屋で、「あれ、どういうつもりで来たの?」とか延々問い詰められますから。打ち合わせもめちゃくちゃ長いですからね。ディレクターさんに、「こういう感じでお願いします」とか言われても、「うーん……ちょっと見えないですね」とか、ずっと話し合ってますから。
- TK
- どうやったら自分を活かせるかというのを常に考えられてるわけですね。
- 狩野
- そういう姿勢で仕事してるから、ずっと第一線で活躍出来てるんでしょうけど。でも、出川さんに限らずお笑いの人は基本的に真面目な人が多いです。
- TK
- 僕らの世界だとあんまり、芸人さんとお話しする機会ってないんですけど、たまにお会いしたりすると、相手の気持ちを常に考えているというか、気配りみたいなものを凄く感じるんです。
- 狩野
- それ、芸人としての癖ですね。10組ぐらい集まって、お笑いライヴとかよくやるんですけど、エンディングで舞台に全員出てきた時とか、「こういうツッコミ待ってますよ」とか、そういう雰囲気を全員で嗅ぎ取ったりしますから。僕もこの世界に入った頃は、全員エスパーなんじゃないかと思いました。
- TK
- お笑いのライヴって、自分が面白いと思っていることを受け手に投げかけて、そこに共通認識が生まれることで、笑いが生まれるわけじゃないですか。お客さんとのコミュニケーションの中で、ひとつの表現が生まれるっていう。受け手とのコミュニケーションに関して言うと、ミュージシャンって芸人さんに比べて一方通行なことも多いと思うんですよね。
- 狩野
- なるほど。でも、それが音楽なのかなって感じもしますけどね。
- TK
- 最初は全く響かない一方通行だとしても、その中でどこまで自分たちの音楽を伝えられるかというのは良く考えます。僕たちの音楽も決して万人受けするような音楽ではないので(笑)。
- 狩野
- 聴かせてもらいましたけど、凄いですよね。結成した頃から、ずっとあの歌い方なんですか?
- TK
- いえ。もともと僕は地声が高いわけでもないですし、メタルとかが好きっていうわけでもないんです。今のバンドを組んでリハーサルスタジオに入って演奏した時、自分が想像してた以上にヴォーカルが聴こえなかったんですよ。それで1オクターブ上げたら聴こえるんじゃないかって。
- 狩野
- えっ! 凄い理由ですね、それ。
- TK
- 実際、歌ってみたら、ちょっと裏返ったりはしたんですけど、こっちのほうが聴こえるから、「じゃあ俺1オクターブ上で歌います」みたいな感じだったんです(笑)。
- 狩野
- あの歌い方って正直、しんどくないですか?
- TK
- 最初はしんどいですよ(笑)。
- 狩野
- それこそライヴとか、あの高音ヴォーカルで何曲も歌ってるんですよね?
- TK
- そうですね。16、17曲とか。
- 狩野
- もともと、あのキーは昔から出ていたんですか?
- TK
- 「頑張れば出るのかな」って歌い続けてるうちに出るようになったんです。スイッチが入ればそれが普通の感覚なんですが、相当無理はしてるのかもしれません。
- 狩野
- 凄いですね(笑)。
- TK
- 決して自分が出したくて高い声を出しているわけではなくて、あくまでも楽曲の表現のために高い声が必要だったというだけなので。無欲なところから生まれたという意味では、結果的に狩野さんのギャグと一緒かもしれませんね(笑)。
- 狩野
- “サンヨンゴー”さんとの歌い分けはどうなってるんですか?
- TK
- ?? あ、345(ミヨコ)のことですね(笑)。
- 狩野
- ミヨコさん(笑)。彼女と「高音はこっちに任せてよ!」みたいな感じで揉めたりするようなことはなかったんですか?
- TK
- その質問は初めてされましたけど(笑)、今まで高音の取り合いで揉めたことはないです(笑)。確かに芸人さんの世界でいえば、ちょっとキャラが被っている感じではあるんですけど、 お互い主張がないというか。「歌いなよ」、「いや、そっちが歌いなよ」っていう感じだったので。
- 狩野
- 「俺が俺が」っていうのは、ドラムの人から一番伝わってきますよね。
- TK
- やっぱり伝わります?(笑)。
- 狩野
- 演奏からも自己主張が強烈に伝わってきますよね。
- TK
- そうですね(笑)。僕らはメンバー3人のバランスが、ちょうどいい感じで取れてるんじゃないかと思うんです。
- 狩野
- でも、バンドの人たちって凄いなと思うんですよ。芸人って人見知りするタイプが多いんですけど、バンドって人見知りしてたらやってけないじゃないですか?
- TK
- 全然、そんなこともないですよ。
- 狩野
- でも「この人と一生やっていかなきゃいけないかもしれない」とか思いませんか?
- TK
- 音楽がまず先にあるので、さすがに結成の時にそこまで思ったことはないですね(笑)。
- 狩野
- でも、そういうことじゃないですか。僕はピン芸人だから、その辺の感覚もよく分からないんです。コンビを組むっていうことは、相方が結婚して子どもが生まれて、家族が出来て、でも、その家族よりも、長い時間を過ごすということでもあるわけじゃないですか。ある意味、バンドも同じだと思うんです。そう考えたら、人見知りだったら出来ないだろうなと思うんです。
- TK
- 確かに人見知りじゃなくても、バンドを組んで初めてメンバーと会うときは、やっぱり緊張しますね。単純に、どういう人が来るのか分からないじゃないですか。それこそヤンキーが来るかもしれないし(笑)。でもそれぐらいですね。音楽っていう共通言語があるから最低限のコミュニケーションは取れますし。
- 狩野
- メンバー同士、仲はいいんですか?
- TK
- うちは仲いいですね。
- 狩野
- プライベートで会ったりするんですか?
- TK
- プライベートでは会わないですけど、お互いのライヴを観に行ったりとかはします。それぞれソロ活動もやっているので。
- 狩野
- え? 行くんですか、それ?
- TK
- はい。え? おかしいですか?
- 狩野
- 行ってどう思うんですか?
- TK
- 面白いことやってるなって。凛として時雨は僕がバンドのディレクションを任せてもらってるところがあるんですけど、他のプロジェクトで僕以外の人が、うちのメンバーをどうやってプロデュースしてるか、すごく興味があるんです。それを観ることで僕には引き出せないほかのメンバーの魅力に気づいたり。
- 狩野
- でも、自分と一緒にやってるときよりライヴが盛り上がってたりしたらショックじゃないですか?
- TK
- その感覚が僕にはないんですけど(笑)。
- 狩野
- 本当ですか。
- TK
- たぶんそういう感覚の人もいると思います。メンバーのソロ活動にジェラシーを抱いたり。うちのバンドはそういうことがないんですよね。
- 狩野
- そうなんですね。僕だったら怖くて絶対観にいけないと思います。
- TK
- 狩野さんはコンビを組もうと思ったことはないんですか?
- 狩野
- お笑いを目指した頃は、コンビもいいなと思いましたけど、僕が通っていた日本映画学校の俳優科って、生徒の99%が俳優志望だったんですね。それこそお笑い志望は1学年に1人くらいの感じで。
- TK
- お笑い志望の方もいるんですね。
- 狩野
- 学校の卒業生がウッチャンナンチャンと出川哲朗さんなんです。だから、ウンナンさんが大好きで芸人を目指して入学してくるような人もいるんですけど、そういう人はほんの一握りで。だから単純に組む相手がいなかったっていう(笑)。あと、さっきも話しましたけど、自分の中で笑いに対する自信があったんですよね。だから一人でいいやって。
- TK
- 相方を探すよりも先に、一人で笑いを取れる自信があったんですね。
- 狩野
- そうです。ピンでネタをやっていたとして、相方と別れてソロでやることになっても、今のキャラクターまで行き着いたか分からないし。そういう意味でも、最初から1人でやっててよかったなと思います。
- TK
- 学校の同級生は実際、役者として活動されてる方が多いんですか?
- 狩野
- そういう人もいますけど、普通に就職したり、結婚してる人が多いんじゃないですかね。
- TK
- じゃあ、その学年は狩野さんが大スターみたいな。
- 狩野
- 大スターってわけじゃないですけど(笑)。でも、初めてテレビに出た時は、クラスメイトから、「観たよ!」って、たくさん連絡を貰って。専門学校時代の友達とは今でも仲がいいんですよ。ご飯を食べに行くのも、芸人仲間よりも、専門学校の友達のほうが多いです。学生時代の思い出を話したり、すごくリラックスできるんですよね。
- TK
- ちなみに芸人さん同士で食事に行くと、どういう話になるんですか?
- 狩野
- 芸人同士で行くと、人にもよりますけど、基本みんな真面目なんで、今年の目標を語ったりしますね。
- TK
- そんなに真面目なんですね(笑)。
- 狩野
- 「この前こういう番組に出て失敗しちゃったんだけど、狩野さんならどうします?みたいな相談とか。あとは飲みながら大喜利やったり。カラオケのフリータイムを使って、1曲も歌わずに、朝まで大喜利したこともありますよ。
- TK
- やっぱり芸人さんって常に思考回路がそっちに行くんですね。
- 狩野
- 行きますね、自然と。
- TK
- 狩野さんは今まで芸人を辞めたくなったことってあるんですか?
- 狩野
- 1回ありますよ。それこそ、芸人を始めた頃、毎月ライヴに出てたんですけど、そこで結果を出すと事務所と契約できるんです。マネージャー陣が一番後ろの席で若手のネタをチェックしていて、僕も張り切って挑んだんですけど、出演1回目からまったくウケなくて。本当に無音状態でしたね。空調の音だけが虚しく鳴り響く感じで。そんな状態が毎月続いて、5ヶ月目ぐらいになると、もうお客さんが僕のネタを観なくなるんです。「あ、この人、面白くない」みたいな感じで。それで他の芸人のアンケートを書き始めたり。
- TK
- それはキツいですね。
- 狩野
- さすがに心が折れて。すべりすぎて血尿が出ましたから。
- TK
- そんなに身体って正直なんですか(笑)。
- 狩野
- 血尿なんて初めてだから、さすがにびっくりしましたね。その時、「今、辞めたら、この苦しみから解放される」って真剣に思いました。そこで最後のネタとして考え付いたのがイケメンのキャラクターだったんですよ。
- TK
- そうだったんですね。
- 狩野
- それまでは色んなことをやってましたよ。ウルトラセブンが人間の姿に戻るんですけど、アイスラッガーの部分だけ戻らなくて困るってやつとか(笑)。
- TK
- 今やったら面白そうですね。
- 狩野
- さすがにそれは(笑)。そんなことを色々やった末に思いついたのが、イケメンキャラだったんですけど、そもそもあのキャラって『エンタの神様』のだいたひかるさんのネタを観て思いついたんですよ。根暗っぽく毒舌を言う、だいたさんのキャラが『ちびまる子』ちゃんの永沢君みたいだなって、ふと思って。それで『ちびまる子』ちゃんを読み返した時、花輪君みたいなキャラって芸人にいないんじゃないかって気づいたんです。ナルシストなキャラをやっても、どうせ嫌われてるし、もういいやと思って。それで「もしもナルシストがテレフォンショッピングで販売員をしたら?」みたいなネタをやったらお客さんにウケたんですよ。
- TK
- ついに扉が開いたんですね(笑)。
- 狩野
- 初めてウケたことにびっくりして、台詞が飛んじゃったんですけど。
- TK
- さすがです(笑)。
- 狩野
- でも、それまで感じたことのなかったような手応えを感じて。それで髪を伸ばして白いスーツを着てオーディションを受けたら、どんどん合格するようになって。
- TK
- ちなみに自分がイケメンだと思い始めたのはいつごろからなんですか?
- 狩野
- それね、小2から思ってました。
- TK
- 早くないですか(笑)。
- 狩野
- ずっとイケメンっぽい世界に憧れていて。で、中学ぐらいになって音楽に目覚めるわけです。90年代の、スーツ着て歌ったりだとか、ああいう世界が大好きで。中でも一番好きなのがラルクだったんですけど。
- TK
- ラルク以外は何を聴いていたんですか?
- 狩野
- あとはSOPHIAとか。
- TK
- 「街」とか聴いてました?
- 狩野
- 「街」!聴いてたなあ。あとはSIAM SHADEとか。
- TK
- バンド系が好きなんですね。
- 狩野
- そうなんですよ。クラブとか行ったことあるんですけど、僕はあっち系の音はダメでしたね。
- TK
- 狩野さんって学年だと1個上になると思うんですけど、生まれ年は僕と一緒なんですよね。
- 狩野
- だから聴いてきた音楽も似てるんでしょうね。
- TK
- バンドでいえば、僕はGLAY、ラルク、LUNA SEAも良く聴いていました。
- 狩野
- LUNA SEAは僕、コンサート行きましたよ。そういえば初めてギター買ったとき、INORANさんの真似してギターを担いで写真撮ったんですよ。
- TK
- 僕はINORANさんモデルのギター買いました(笑)。あとギターを始めるにあたっては、B’zにも影響を受けてます。
- 狩野
- 本当にJ-POPとかJ-ROCKが大好きだったんですね。
- TK
- 大好きでした。普通にKiroroとか、あとは小室哲哉さんが作っている音楽も大好きで聴いてました。
- 狩野
- 僕は弾き語りっぽい音楽も好きで、19とかゆずも聴いてたんですよ。
- TK
- ああ、19もゆずも聴いてました。アコギでちょっとコピーしてました。
- 狩野
- 僕もやっていましたよ。19、いいっスよね。
- TK
- 狩野さんがギターを始めたきっかけはラルクだったんですか。
- 狩野
- いえ、ラルクではなく、ゆずとか19とかそっちの感じでしたね。先輩が弾き語りしてるのを見て格好いいと思って。
- TK
- 文化祭とかで演奏しました?
- 狩野
- やりました。僕は小さい頃、ピアノを習ってたので、その時はギターじゃなくてキーボードだったんですけど。hideの「TELL ME」をやりました。
- TK
- じゃあ、、、モテました?
- 狩野
- モテました(笑)。
- TK
- イケメンでバンドやってたらモテますよね(笑)。
- 狩野
- あと高校時代は、ティーンズミュージックフェスティバルにも出場しました。地元の仙台で。懐かしいなあ。
- TK
- 僕も楽器屋さんがやってるオーディションとか出場しましたよ。凛として時雨をやる前に、345とバンドをやっていたので、それで楽器店が主催してたオーディションを受けたんですけど、予選すら受からなかったです(笑)。
- 狩野
- 僕も全然でしたけど。そういうコンテストとかって、なぜか出てみたいんですよね。
- TK
- 始めたばかりでCDを出すとかそういうレベルまで行ってないバンドにとっては、コンテストって、大きな目標ですから
- 狩野
- 出場して、ちょっと挫折を味わって、みたいな。
- TK
- 全然かすりもしないんだなって(笑)。
- 狩野
- そこで音楽をやめるか続けていくかですよね。僕は音楽をやめて、今、こうして芸人になってるわけですけど。
──今でもバンドに対する憧れはあるんですか?
- 狩野
- もちろんあります。ふらっと新宿とかで飲むじゃないですか。で、2軒目行きましょうみたいな話になって歩いてる途中に、あの、MARZでしたっけ?
- TK
- はい、新宿のライヴハウス、MARZ。
- 狩野
- あそこからバンドの演奏が聴こえてきたんで、「ちょっと行ってみましょうよ」みたいな感じで、フラっと行って、後ろのほうで全然知らない若手のバンドを観たり。お客さんがそんなに入っていない中、バンドが一生懸命演奏してるのを観ながら「格好いいよな~」とか言いながらビールを飲んだりするのが大好きなんです。やっぱり今でもバンドに対する憧れがあるんでしょうね。
- TK
- 今でもバンドをやりたい気持ちはあるんですか?
- 狩野
- あるのかもしれないですね。だからドッキリだったとはいえ、50TAをやってた頃は本当に幸せでしたよ。番組の収録とか、お笑い雑誌の取材とかに混ざって、スケジュールに「歌入れ」って書いてあるんですよ。だからギターを持って収録の現場に入ったりして。ミュージシャンになった気持ちを味わえましたね。ライヴもすっごい気持ちよかったし。
- TK
- MCで「芸人辞めてミュージシャンになる」って宣言してましたよね(笑)。
- 狩野
- そうそう、「俺、このまま行けるんじゃないか!?」と思って。お客さんもめちゃくちゃ盛り上がってくれて。まあ、全員サクラだったんですけど(笑)。でも、本当に嬉しかったんですよ。お笑いのライヴでお客さんがあんなに盛り上がることってないですから。自分は天才なんじゃないかって錯覚しました(笑)。
- TK
- じゃあ、「芸人辞めてミュージシャンになる」っていう発言は……。
- 狩野
- 完全に本音でしたね(笑)。
──ちなみにお二人が「音楽」をテーマに絡むとするなら、どんなことをやってみたいですか?
- TK
- 音楽をテーマに……どんなことがいいですかね?
- 狩野
- 僕、自分が作った曲をプロの人に歌ってもらいたいっていう夢があるんですよ。だから僕が作った曲を凛として時雨さんに演奏してもらえたら最高です。
- TK
- それ新しいですね(笑)。僕らが曲を提供するんじゃなくて、逆に狩野さんに曲を書いていただくっていう。
- 狩野
- はい。作詞作曲してみたいです。
- TK
- まずは弾き語りとかでもいいですか(笑)。
- 狩野
- 全然いいですよ。
- TK
- それが実現したら是非ともライヴに出てくださいね。
- 狩野
- そんなの喜んで出ますよ!
- TK
- 本当に呼びますよ。ドッキリじゃなくて。
- 狩野
- ゲストで登場して、無事ステージまで辿り着ければいいですけど。途中で落とし穴とかあったら最悪ですよ(笑)。
text by Satoshi Mochizuki
photo by Kiyoaki Sasahara