TK from Ling tosite sigure 2nd Mini Album Secret Sensation Official
Website
TK×又吉直樹(ピース)

Interview

TK×又吉直樹(ピース)

まずは、初の顔合わせで驚く方も多いと思いますが、今回又吉さんに対談のオファーをしたのは?

TK以前に、別の機会でベースの345が又吉さんと対談させていただいた時に、凛として時雨を聴いてくださっているという話を聞いて。いつかお会いしたいなと思っていたんです。その後、ピースの単独ライヴを恵比寿ガーデンホールに観に行って。その時はたしか、又吉さんも綾部さんもお忙しくて、終演後にすぐ出てしまったのでご挨拶できなかったので。

又吉そうでしたね。

TKいつかどこかのタイミングでお会いできればと思っていたので、今回実現できてすごくうれしいです。

又吉僕はずっと、凛として時雨さんを聴き続けているんですよね、すごく好きで。音楽全般好きなんですけど、凛として時雨——名前もインパクトがあるじゃないですか。聴いてみたら、むちゃくちゃかっこいいなと思って。毎回、雰囲気がちがったり、どんどん進化していってるので。僕らはライヴで、音楽が必要な時あるんです。例えば、ネタがはじまる前に流せるのは、せいぜい20秒くらいなんですけど。それで気づくのは、曲がはじまってイントロからの10何秒の間に一気にテンションを上げたり、雰囲気をガラッと変えられる音楽ってあまりないんですよ。僕は音楽が好きなので、いろいろと聴いてどれがいいかなと思ったら、全部、凛として時雨さんになるんですよ。

TKありがとうございます(笑)。

又吉一瞬で、ちがう世界を構築できるというかね。もちろん使う目的だけじゃなくて、自分で聴いていてもテンションがあがることが多くて。それは僕はすごい才能やと思うんです。

TKたしかに、曲のどの部分に対しても全力は尽くしているので。その結果、プログレっぽくなったり、矛盾した曲の構築の仕方で完結したりもするので。スタンダードな曲とは違うとは言われますね。でも僕は、そこを目指して楽曲を作っているわけじゃないので。自分が今、なにを演奏したいかとか、どんな音がほしいかを頭から順番に考えていくと、自然とああいうふうになっていて。

又吉へええ。

TK結果的に、インパクトの連続という感じになっていて(笑)。

又吉それは、漫才と共通する部分があると思うんです。僕、芸人になってすぐの頃、18、19の頃に養成所に行っていたんですけど、授業では3分とか5分で漫才を作らなきゃいけないんですよ。ネタ見せのオーディションでも、だいたい、3分とか5分なんですけど。これが長いようで、短いというか。5分の使い方って難しいんですよね。それで僕は音楽を聴きながら、どんな構成がいいのかなと思って、音楽をいろいろ探っていたんです。ほんで僕がネタをやると、「サビどこでくんねん」っていうか。そんな言い方ではないですけど、ダメ出しをされるんですよ(笑)。

TK×又吉 (ピース)

TKはははは。

又吉最初から最後まで同じトーンで、どこが山場やねんって言われることが多くて。なるほどなと。5分のネタでも、1分経ったところでようやく大きな笑いがひとつあるっていう。ほんならこれをまず頭に持っていってと、構成を組み替えていくのは難しいことなんですよ。意図的にできるものじゃないんですよね。変になるし。1分の振りがあるから、1分後の笑いが成立するというか。で、いろんな音楽聴いていても、そういうものはないから、できひんねやろなと思ってたら、このバンドはできてるがな!っていう。だから、狙いでできることじゃないんでしょうね。

TK意外なところで繋がりましたね(笑)。そもそも、凛として時雨を知ったきっかけはなんだったんですか?

又吉僕は、本屋とCD屋には頻繁に行っているんです。それで、とりあえず気になるやつは全部聴くという。最初に気になったのはたぶん、LOFTのフリーペーパーに名前が載っていたのかな?それで、いい名前やなあと思って。それで頭に留まっていて、聴いたんじゃないですかね。

TK名前から気になって聴いていただいたんですね。しかもLOFTっていうことは、結構昔ですよね。僕も覚えてないです、それは(笑)。

又吉誰かがインタビューで応えていたのか、どうか忘れてしまったんですけど。でも、載っていたんですよ。

凛として時雨という名前にどんな思いを抱いたんですか?

又吉僕の以前のコンビ名が、「線香花火」やったんですよ。バンドもいろいろあると思うんですけど、漢字で「凛」という言葉であったり、「時雨」っていう言葉を使うのは、たまたま決まったとかもあると思いますけど、やっぱりそこにインパクトが生まれてしまうじゃないですか。決意表明というか。線香花火という名前をつけたら、線香花火じゃないとあかんというか。そういう名前が好きなんです(笑)。僕はむかし、『凛』という芝居も書いたことがあって。

TKそうなんですね。

又吉すごく寒い地域のむかしの伝説と現在の社会的なことが結びついたような芝居を書いて、『凛』とつけて。「凛」という言葉自体が好きなんですよ。で、「時雨」じゃないですか。いい名前やなあと思って。

TK当時、迷いながらも無我夢中で考えてつけた名前ですね。「凛」って、普段から使う言葉ではないじゃないですか。でも、言葉の深い意味は知らなくても、その言葉が冷たい空気感を持っているなとは、当時から思っていて。自分が冷たい音色だったり、そういうものを持っているんじゃないかとはなんとなく感じていたし、当時、凛として時雨でやろうと思っていたデモには既に今に続く世界観があったので。曲調もコロコロ変わるなと思っていたから、それって突然降っては止む雨、「時雨」みたいだなと。思い付きでもあるんですけど、「凛として」という言葉と何かを組み合わせたいというのが元々あって。だから、なんでもよかったわけではないんですよね。突発的だとしても、そこに運命的なものは感じていたんだろうなと思うんです。

又吉響きあっていますよね、音楽とバンド名が。線香花火も響き合っていたんですけど、ピースに関しては響き合ってないんですよね(笑)。なんでピースなのかも、消去法でピースになった感じだったので。

TK今、響き合ってないのはまずいですね(笑)。いろいろ考えたんですか?

又吉そうなんですよ。それぞれ別々のコンビだったので。相方は、スキルトリックというコンビで昔やっていて、僕は線香花火じゃないですか。会うた時に、綾部から出てくるワードが、僕が受けつけないワードばかりだったんですよ。で、僕が出すワードは、世界観が強すぎる、とか言われて。だから、お互いの円のなかにない、ふたつの円の外にある言葉を使おうってなって、ピースになったんですよ。

TK今も実感としては、あまり気に入ってるわけではないんですか?

又吉みんなからは、「ダサすぎひんか?」とか「いいの、それで?」とはずっと言われていたので。でも、僕は言葉が好きなので。ピースと一度つけてしまうと、ピースを自分なりに解釈していくので。それでだいぶ、自分のなかに(笑)。

TK言葉が時の経過と共に馴染んでくる感じはありますよね。

又吉凛として時雨さんという名前を見た時に、僕も言葉を解体したり、どういうことなんだろうなって考える方なので、面白そうやなと思ったんですよね。

TK又吉さんはそれこそ日本語というものをずっと直視している方だから、僕の、日本語でバンド名を作りたいとか、ちょっと冷たい感じがあるから凛としてという言葉を入れたとか、当時の勢いでつけたバンド名を見られるのはすごく恥ずかしいですけど(笑)。

又吉そんなことないですよ。本来の言葉の使い方ってそうですもんね、こういうイメージがあって、それをどうやって相手に伝えるかで。冷たい感触のって伝えると、本来ご自身が頭の中で持っているイメージとズレがありますよね。だから、その中間というか、凛として時雨っていう名前やったら、イメージが限りなく載せられるってことですよね。

TKうんうん。

又吉それが僕は、言葉の正しい使い方やと思ってるので。成功しているんじゃないですかね。

実際にバンド名に惹かれて音を聴いた時に、ギャップはなかったですか。

又吉僕はギャップは感じなかったんです。本人はイヤかもしれないけど、凛として時雨という名前から志や本気さを僕は感じたので。聴いてみて、やっぱそうやんなっていう。嬉しかったですね、かっこいいバンドに新しく出会えたら、ああこんな人もおんねやって思うので。そこからずっと聴かせてもらっていて。

TKそういうのは、お笑いの同期の方とか若手の方でもそういう発見はあるんですか? こんなに面白い人いるんだっていう。

又吉います、います。

TKそれは音楽を発見する時とは違う感覚だったりするんですか?同じ職種だとライバルとして見てしまうとか。

又吉僕はもともとお笑いファンなんですよ。お笑いって、現象じゃないですか。お客さんが笑うかどうかだけなんですけど、正当な評価をされてない人っているんですよね。僕は、東京の吉本の若手の中で、それを正当な評価まで持っていく役割やと自分で勝手に思っているんです。それで後輩のネタを見るんです。例えば、ゴングショーとかで5人手が上がったらネタ終了みたいのがあるんですけど、お客さんも若い人が見にくるから、ネタの面白さや本人の独自性よりも、キャッチーやったり、男前とかが加点されて。面白いけど服ダサいから、最初から手が上がってたりすることがあるんですよ(笑)そういうのを見て、こいつセンスすごいなと思ったら話しかけて、「ちょっと服買いにいこか」って買いに行って。

TKそこは直してあげるんですね(笑)。

又吉でもそういうやつって、自分の考えを持ってるから拒否するんですよ。「いや、又吉さん、僕はお洒落しにきてるわけじゃないから。格好なんかどうでもいいんですよ」って。それもわかるけど、じゃあお前どんだけおもろい本でも、ゲロにまみれた表紙やったら手にとらへんやろ、と。そんな極論の譬えを出して(笑)。せめて自分が作った面白いネタが、変なふうに解釈されへんように持っていったらいいんじゃないの?って。むちゃくちゃダサいっていうのは、むちゃくちゃお洒落しすぎてネタの邪魔してるお前が憎んでいる行為と、ほぼ同じ役割果たしてんでって。そういうと、「わかりました」って(笑)。

TK×又吉 (ピース)

TKそんな譬え出されたら素直にならざるを得ないです(笑)。

又吉そういうやつを見つけると嬉しいんですよ。今言うてたんが、フルーツポンチやったりするんですよ。フルーツポンチの村上やったり、しずるとか。はんにゃもそうでしたし。

TKへえ!

又吉見つけて、又吉さんが見つけた後輩は売れていく、みたいに言われて。でも僕は全然、テレビ出てなくて。俺、なにしてんねんっていう。

TK敏腕プロデューサーじゃないですか(笑)。その時はピースとしてはそこまで売れていなかったんですか?

又吉全然売れてないです。ピースは、ライヴでは結構芸歴を積んでいたので、お客さんも多かったんですけど、テレビのオーディションは芸歴長いからと優遇してもらえないんですよ。ピースの持ってきたこの1分ネタではテレビのお客さんは難しいとか、わからへんとか、それで僕らは受からなかったんです(笑)。最後の方に出られたんですけど。

TKそれは又吉さんのなかにある、人に対して自分が面白いと思う部分と、自分がやるならこれが面白いっていうのが、違うところがあるんですか?

又吉全然ちがうんですよね。自分は、こういうネタとかこういう雰囲気の、みんながやってないもので、お客さんを楽しませたいというのがあるので。それを持って行ってあかんって言われたら、じゃあ別のものをというよりは、この見せ方をどういうふうに変えたら面白いと伝わるのかなっていう作業をするので。後輩とか才能ある人やと、自分が面白いと思ってることと表現が一致してるから、すぐに喜んでもらえるんですけど。僕のはちょっと、時間がかかるというか。

TK自分のなかで面白いと思ってる部分はずっと変わっていなくて、それをどう人に伝えるのか、ですね。それは僕も、音楽で感じていて。自分がかっこいいと思っているものや、これは人に伝わるメロディだと思っているものが、歪みすぎたギターによってわからなくなったりとか、ちょっとわからない言葉がかぶさることで、少し人との距離が生まれたりするんです。本当は伝えたい言葉を、その言葉が持つ温度感のまま伝えようとすると、少しサウンドの邪魔をしてしまうから、それをオブラートに包んだり。結果的に、伝えたいサウンドにはなっているんですけど、伝わる速度が少し鈍ったり、逆に伝わる速度は速いのに、ちょっと奥行きがなくなっちゃったりとか。

又吉ああ、なるほど。

TKなにかが伝わらなかった時に、じゃあ、これは自分の中でしかかっこよくないんだと思って、伝えるのをやめるよりは、次はこういうふうに伝えてみようっていうのは、ライヴでもやったりしますね。

又吉それは僕も大事やと思うんです。ただ、難しいですよね(笑)。

TK難しいですね(笑)。

又吉僕もそれはずっとやっていて。本を読んでいても感じるんですよね。むちゃくちゃ売れているもので面白いものもありますし、あまりみんなが知らないとか、難しいとされているけど面白いものもある。両方、面白いんですよね、自分の感覚では。でも、伝わり方は全然ちがうわけですもんね。じゃあ、あまり伝わらへん面白い本は、人に紹介せんほうがいいんかとか思うんですけど。それもちゃうねんなというか。じゃあどうすればいいんやろうっていうのは、結構考えますね。

TKそういう、どこかに埋もれていたものが、一瞬の事件によっていきなりメインストリームに転がり込んだりもするじゃないですか。

又吉はいはい。

TKそれは音楽の世界もお笑いの世界も、小説の世界でもあると思うんです。自分が、かっこいいなと思っている音楽でも、まったく人に伝わってないものもたくさんあるんですよね。それがなにかの拍子に突然、人に伝わっているところを見ると、今までなんで伝わってなかったんだろう?って純粋に疑問に思いますし、そこの差ってなんなんだろうなと。でも最終的にはそこがわからないから、面白いんだと思うんですけどね。

又吉なにか発見されるんでしょうね。鑑賞の仕方が。子どもの頃にウニ食えなかったんですけど、ウニはうまいじゃないですか。

TK美味しいです(笑)。

又吉食い方がわからなくて、大人が食ってるあれはおいしいんか?っていう疑いがずっとあったんですよね。そのままでは、僕とウニが出会うことはないんですけど。でも、軍艦巻きになった時、僕はご飯と海苔がすごく好きなので食えるんですよ。ウニは偶然そこにたまたまおったから一緒に食ったということなんですけど、あれ? いちばんウニが自分のなかにインパクトを残していったなと、そこで初めてウニを理解できるみたいな。軍艦巻きスタイルで食って、ウニが印象に残って、ウニだけで食ったらウニが食えるようになった。そういうことが僕は、演芸でも音楽でも文学でもあると思うんです。

TK僕、近いことをキムチで経験したことがあります。昔からキムチ苦手だったんですけど、キムチチゲになった瞬間に初めて理解出来ました(笑)。

又吉さんは小説『火花』を発表していますが、TKさんは読んでいるんですよね。

TKはい、読ませていただきました。元々は『BIRD』という雑誌に載っていたエッセイが凄く好きだったんです。

又吉ありがとうございます。

TKじつは僕は普段、本が読めないんです。その本が読めない理由が、言葉が読んだ瞬間にどんどん、脳の外にはじかれて飛んでいっちゃうんですよね。物語が全然入ってこないというか。

又吉言葉が読んだら飛んでいくっていうのは、じつは言葉から受ける情報量がほかの人よりも多いんじゃないですか? 言葉が飛んでいってるのか、もしくは自分が飛んでいってるのかもしれないですよね。

TKああ、たしかにそうかもしれないです。

TK×又吉 (ピース)

又吉この言葉はこういう言葉やから……って、その言葉をきっかけに自分がちがうところにいってしまうというか。読みすぎてる可能性が高いかもしれないですね。

TK実は『火花』は久しぶりに読んだ本だったんです(笑)。そんな感じなので、入り口はいつもと同じ感覚で。脳を紙のなかにへばりつけないと、物語が入ってこないんですけど。10ページも読んでいくと、自然に頭の中に入っていくる感覚があって。その感覚は初めてだったんですよね。それは10ページまでがつまらないという話ではなくて。途端に入り込める瞬間があった。そこからは速かったんです。自分に本に対してこんな集中力があったとはという(笑)。

又吉そうなんですか(笑)。

TK一旦入り込むと周りが見えなくなるくらい、集中する時間があるんですけど。音楽にしても、僕は、歩いてる時にメロディが降ってきましたというタイプではないので。普段はまったく音楽のことを考えていないんです。でもふと入り込んだ時に、その音が見える瞬間があって。言葉や歌詞にしても、自分のなかに入り込んだ時に、そこに生まれた誰かが、自分の意識の向こう側でなにか発言をしていたり、なにかの記憶が生まれていたりして。そういう、トランス状態に陥る瞬間があって。

又吉ああ、うんうん、ありますね。

TK『火花』を読んでいる時、小説って面白いかもって初めて思ったんです——こんな言い方は失礼かもしれないんですけど。僕みたいに普段本を読めない人間にとって、読ませる強力な引力を持ってるものってすごいなと思って。気付いたら周りが無音になって世界に入り込んでいました。この物語のなかで発言している言葉は、又吉さんの頭のなかにある言葉なのか、それとも又吉さんの頭のなかに誰かができて、その人が発言しているのか、すごい気になりました。

又吉みんなきっと、僕と交わる部分がある登場人物ばかりやと思うんですけど。たまに、僕が思ってなかった変なことを言い出すんですよね。もしかしたら、筆が滑っただけかもしれないですけど。変なことを言い出した瞬間があったら、それを大事に回収していきました。そしたらどんどん、自分が思っていなかった話になっていったんです。“神谷”という登場人物が、「美しい風景を壊すことによって、もっと美しい風景が出てくる」みたいなことを言うんですけど、僕自身は、桂枝雀師匠が言っていた緊張と緩和のような、美しい風景を壊したら笑いが生まれやすいということは知っているんですけど。「より美しい風景が生まれる」って、どういうことなんやろうと思って。それはずっと頭のなかに置いて、これは僕の言葉じゃなくて神谷の言葉やから、こいつの言葉を回収していこうと思って。ほんなら、そこからひとつの縛りが生まれて。神谷は、美しい風景を見たらとりあえずぶっ壊さな気がすまへんというか、そういう正義を持ってる人間として描いていくので。結末もすべて、神谷がぽろっと言った一言によって、全部変わっていったんです。それは、今まで自分が書いていた文章ではなかったことで面白かったですね。

TK登場人物に、命が吹き込まれた瞬間があったんですか?

又吉そうですね。いわゆるトランス状態みたいなものは、ネタを書いていてもなったことがありましたけど。小説の時は、他の作家さんから2つのことを聞いていたんです。よく漫画家が言うような、途中から登場人物が勝手に動き出すっていうものと。でも同世代くらいの作家は、勝手に登場人物が動き出すっていうのは一部の限られた才能ある人だけで、動かないよねって。考えて書いてるよね、と言うんですね。現実はそういうもんなんやって。だから、勝手に動き出したとか言ったら、恥ずかしいんかなって思いながら書きはじめたんですけど、むちゃくちゃ動きはじめましたね(笑)。

TKはははは。

又吉俺なんも考えてへんやんってくらい、書けちゃうんです。言葉の詰めが甘いところもあるので、読み返して直していくんですけど。そしたら、ここを直したいってなった時に、直したいと思っているのは僕自身だから思いつかないんです。神谷はなんて言うんかなって思いだしたら、なんも思いつかへんくて。そういうのがいちばん時間がかかりましたね。

TKへええ。それは、歌詞を書く時にも同じ現象がありますね。僕は全部自分の言葉なので、“神谷さん”はいないですけど(笑)。なにかが頭のなかに生まれて、言葉が生み出されていって、例えば楽曲の途中まで書いて、一回そのトランス状態が終わるとするじゃないですか。その途中段階の曲を眠らせて、少し経ってからまたつぎ足す作業になるんですけど。前半を書いた自分が、どこにもいないんです。寸分の狂いなく、自分がそれを書いていた時のトランス状態のアンバランスなところに持っていくっていうのが難しいし……でも別に同じ場所に行っても、その気持ちにもなるわけでもなかったりして。なんでこんな言葉を書いたんだろうって。自分でわからないんですよね。

TK×又吉 (ピース)

又吉でも消したくないんですよね(笑)。

TKそうなんです。それは絶対、真実だと思っていて。今自分が見てわからないということは、誰かわかるのかな?って思う時もあるんですけど、ここに書いたのは絶対、この言葉でしか存在しないんだろうなっていうこともわかっていて。

又吉今おっしゃっているのはほとんど、言霊という、言葉の起源みたいな話なんですよ。むかしは世界中でそうだったらしいんですけど、日本やったら、巫女的な人が火を焚いて夜通し白い紙に文字をぶわーっと書くんです。もうなに書いてるのかわらかないんですって。途中からトランス状態になって書いていて。その巫女さんは神様じゃなく、それを降ろして書くだけの人なんですよね。その後に神官みたいな人がそれを読んで、そのなかの重要なフレーズを、政治などに役立たせるという。それが言霊の起源らしく、世界中でそのやり方があるんですって。そういうのって作詞のやってる状況と近いかもしれないですね。

TKもしかして……言霊なんですかね?(笑)

又吉そうやと思いますよ。巫女さんも、ここもう一回書けって言われても絶対書けないでしょ(笑)。巫女さんは降ろせるからすごいんでしょうけど、それを読む人もすごいし。歌詞は、それを同時にやらんとダメなんですもんね。それは難しいことで。

TK又吉さんが小説を書いた時は、最後まで一気にいったんですか。それとも途中で躓く瞬間もあったんですか?

又吉ここからどうしようっていうことはなかったと思うんです。自分でこういうふうにしようとかも、考えてなくて。二人の関係性を丁寧に書いていこうと書き進めて、途中から物語が動き出すんですけど、編集の人に半分くらい書いて渡した時に、ここからどうなるんですか?って言われて、僕もわかりませんって言っていて。どうなんねやろうって思いながら書いていって、途中で自然に書けましたね。

TK『火花』の取材の時に、どんなコンセプトで書いたんですかって質問はなかったですか? 僕はCDを出すとよく、コンセプトだったり今回はどういう意図で作ったんですかっていう質問があるんですけど。その妙なスピードで飛んでくる球が苦手で。

又吉わかります(笑)。

TK基本的に音楽を作る時って、同じように終わりは見えてないんですよね。ゼロから今自分が何を聴きたいのかとか、なにを出したいのかを探るところからはじまるので。そこを構築していって、最終的に区切りを打った時点でそれが曲になっているんです。作品に対してはもちろんですけど、曲に対しても、どういう曲を作りたいというのがまったくないままはじまって、終わるんです。感覚として残っているのは例えば、アコースティックギターを入れようとか、今回ならベルリンで録りましょうかとか。そういうのは記憶として残っているんですけど。それ以外は、巫女さんじゃないですけど、僕のなかの巫女さんがスパークしてる時しか、作曲が進んでいないので(笑)。

又吉うんうん(笑)。

TK後で聞かれても、まったくなにも覚えてないんですという感じになってしまって。小説って、音楽よりも長いじゃないですか。それはどうやって作るのかなっていうのは、すごく知りたいです。これは逆に、考えていたら作れないんじゃないかなって思いましたし。

又吉僕もまだ長編小説はひとつしか書いたことがないんですよね。エッセイならなにも考えんと、1200文字って言われたらこんなことを書こうって、書きはじめて1200文字くらいで終わらすのをやってきたんですけど。短編小説を書く時に初めて、小説は同じ書き方はダメだろうと思ってなんとなく結末を考えて書いていたんですけど。それだとこぢんまりしたものになっちゃうので。『火花』ではなにも考えずに、普段のスタイルに戻したんです。ただ次にまた同じやり方でできる保証が全然ないから、ビビってるんですよね(笑)。

TK僕も、コンセプトや完成形が先に見えてしまってると、自分の手に届く中からしかものが生まれない気がしているんです。

又吉ああ、うんうん。

TK音楽をやっていて、自分自身を奮い立たせるのは、どこか自分に届かないものに手が届いた瞬間なんです。明確に、目的地にナビゲーションで設定していける感覚でも作れるのかなとは思いますけど。結局そのやり方だと、自分自身がそれになにも感じられないのかなと、思っちゃっているところがあって。

又吉話を聞いてると共通点があって面白いですね。それも、僕がいつも気を付けていることなんです。自分の頭で考えたら、自分の才能を超えられないから、自分とちがうものをぶつけたり、それこそ降りてくる瞬間みたいなものを待つっていうのが、重要なんですよね。音楽とか文学の現場でこういう話をするとみんなわかってくれますけど、お笑いの場で後輩と飲みながらこういう話をすると、頭おかしいと思われるんですよ(笑)。

TKそうなんですか(笑)。

又吉今言ってる話とか僕はすごい楽しいんですけど、お笑いのインタビューとかでこれ言い出すと、出来上がったのを見ると、僕がめっちゃ変なこと言うてて、一同怯えてましたみたいな締められ方をしていたり(笑)。僕はいつも真面目にしゃべってるんですけど、すっげえ変なやつやっていう処理をされて終わりというか。お笑い番組とかで、モノボケとかあるじゃないですか。

TKはい、なにかものを使って笑いに変えるような。

又吉ギャグや大喜利の大会で後輩に、あれはどうやるんですかって訊かれたりするんですよ。そういう時に僕、今みたいな話をするんですよね。自分で考えちゃだめですよ、って。そのモノの声を聞いて、モノの力によって、ギャグが生まれるんですとか言うと、みんな怖がるんですよね(笑)。

TK伝わらないんですね(笑)。

そろそろお時間がきてしまいました。創作での共通の話題が多かったですが、こうして会って話をしてみていかがでしたか。

TK僕が読み取った言葉から受ける印象そのままの人で、掴めるようで掴めないからさらに知りたくなるというか(笑)。そういう魅力を強く感じました。

又吉僕はお話を聞いて、あ、やっぱりそうなんやっていうのが多いですね。作り方にしろ。もちろんご自身が作っているんですけど、それ以外のもっと大きなものの力を借りて作っているような。結局、自分の器のなかでものを作るんじゃなくて、器の輪郭をぼやかして、いろんなものを自分のなかに入ってくるようにして作っている人なんやなって。そこがすごく共通するというか。僕も自分自身が作れるものなんて限られていると思うんです。だから、なるほどなと安心したというか。

TK僕も安心しますね。ものを作っている人がみんな同じ感覚ではないと思うんですけど、やっぱりどこかで感覚がつながっていたから聴いてくださっていたのもあるかもしれないし。少しでも同じ感覚で作っているんだなっていうのがわかって、嬉しいですね。今日は本当にありがとうございました。

TK×又吉 (ピース)
又吉直樹が選ぶSensational Phrase

「鼓膜に届かない太陽 それでも明日は来るって」
(M-4「like there is tomorrow」より)

text by 吉羽さおり
photo by 河本悠貴
Back >